2011.10.26 シンポジウム開催

 2011年10月26日、都内ホテルにおいて、「TPP交渉への早期参加を求める国民会議 シンポジウム」を開催し、経営者、学識者、各種組合、企業などから400余名が参加しました。
 シンポジウムでは、代表世話人の一人である白石隆政策研究大学院学長の開会挨拶、東京大学の伊藤元重教授および本間正義教授による基調講演の後、白石代表世話人の司会により経営者、組合、農業事業者および学識者を迎えたパネルディスカッションを行いました。

1.開会あいさつ 白石 隆氏(政策研究大学院大学学長)

  • 歴史を振り返っても、開かれた国であることが重要である。
  • 日本も人口減少が進む中、国を開きアジアから活力をもらうことで成長を目指すことが大切である。
  • 開かれた国をつくるために、TPPの議論を活性化させたい。

2.基調講演

伊藤元重氏(東京大学教授)

伊藤元重氏(東京大学教授)

  • 国を開かずして繁栄した国は過去にもない。「自転車理論」と言われるように、こぎ続けることが重要である。
  • バブル崩壊後の20年間、日本の政策は内向きであった。しかし今後、子孫にどのような世界を残すのかを考えれば、国を開くべきである。今回のTPPは大きなチャンスとなる。
  • 開いた社会をつくるか、殻に閉じこもって現状維持するかで議論が割れているが、今こそ、将来の大きな選択のために議論をしているという認識が重要である。
  • 2年、3年の短期的視点ではなく、5年後10年後に日本がどうあるべきかという姿を見据えるべきである。こうした議論を行うためにもTPP交渉に参加すべきである。
  • TPP交渉に日本が入れば、世界のGDPの40%をカバーする経済連携に入ることになる。TPPにみられる貿易の自由化は、世界的に重要な流れである。自由化の議論に参加し、日本の立場を主張していくという意味でも、TPP交渉への参加は重要である。
  • 国を開くということは国の施策を変えるということであり、社会は世の中の変化に応じ変わっていななければならない。
  • 右肩上がりの時代は変化に対応しやすく、チャンスは多かった。しかし人口減少・高齢化が進む日本は国内の力だけで維持するのは難しい。
  • 現状制度は利害関係者の調整の中で成立しており、政治的均衡状態にある。これを変えようとすると賛成派、反対派の間で議論が紛糾する。しかし、それでも制度を変えるべきである。
  • 硬直化した制度を温存したままにしておくと制度疲労が生じ、そこから制度破綻に至る。昨今のギリシャを見ても分かるように破綻した状態から再生するのは難しい。
  • 破綻に陥る前に変化を社会全体で受け入れ、変えていくことが大事である。APECハワイ会議のタイミングを目前に、日本は国として重要な決断をしようとしている。日本は正しい選択をすべきである。

本間正義氏(東京大学教授)

  • 農業以外の分野では、関税を超えた制度、規律やルールの共通化の方向に世界が動いている。TPP交渉参加に賛成か反対かだけの議論では、世界の流れが見えてこない。
  • TPPはFTAの第二段階であり、TPPの先には大きなグローバル化があることを認識すべきである。最終的に、グローバル化はルールや制度の共通化によって、有限な資源の有効活用を方向づけるという流れに進む。TPPはそうした視点から位置づけられるべきである。
  • TPPに限らず、関税引き下げが国際的な動きとなっている。日本の農業も関税に頼らない構造にすべきである。
  • 農林水産省は全ての関税がなくなった場合の影響を試算し、4兆1000億円分の農業が日本から失われると言っているが、同時に同額の農業生産が国内に残るという結果になっている。関税を完全に撤廃しても、既に関税に頼っていない花や野菜などは残る。
  • 重要品目は10年間の猶予を与えられ、その中で関税ゼロにする流れになると想定される。コメを例にとれば、キロあたりの関税は現在の341円から5年間で半分の170円の関税になる。この価格であれば、まだ外国産は日本に入らないと考えている。
  • TPPの発効まで2、3年かかることを鑑みると、コメ改革の猶予として7年間が残されているといえる。逆にこの7年間で改革できないのであれば、稲作農業は衰退するということである。
  • 農業改革に向け、真剣な議論が必要である。今まで進まなかった農業改革が、TPPを契機に進み、若い人が農業に魅力を感じるようになることを期待する。
  • TPPは日本の農産物の海外市場を考えるきっかけとなる。遅きに失するとも言われるが、まだ対応できる可能性がある。稲作は現在、産業構造上大きな課題を抱えているが、国際競争力は最も強いと考えている。
  • 日本の農業を成長産業とするために、TPPに参加し、農業の議論を深めたい。

3.パネルディスカッション

【パネリスト】
住友化学 代表取締役専務執行役員 髙尾 剛正氏
全日本金属産業労働組合協議会 事務局長 若松 英幸氏
庄内こめ工房 代表取締役 齋藤 一志氏
東京大学 教授 戸堂 康之氏
【モデレーター】
政策研究大学院大学 学長 白石  隆氏

パネルディスカッション

(1)各業界の立場から見たTPP

髙尾専務

  • 東日本大震災で多くの事業所が被災したが、サプライチェーンも復旧し震災当初の混乱は収束した。復興にとどまらず、新しい日本をつくるために、日本に生産拠点を維持しつつグローバル展開できるような取り組みが必要である。
  • 他国が競争力強化の努力を行っている一方で、日本は従来言われるように国際競争力の阻害要因である高い法人税のほか、放射能被害や電力不足の懸念という課題が加わった状況にある。
  • 国際的なイコールフッティングを得るためにも、関税を下げる必要がある。日本が経済連携協定(EPA)でこれ以上海外に遅れをとると雇用や産業に影響が出ると考えている。
  • 交渉参加が遅くなるほど日本は主張しにくくなる。TPPは2020年の構築を目指すアジア太平洋経済圏に向けた唯一の交渉の場であり、ルールづくりに参加しない選択肢はあり得ない。
  • 関税撤廃にとどまらず、手続きや知的財産権保護、インターネットに対応した貿易自由化などルールづくりを進める必要がある。
  • TPP交渉の場でのルールづくりを通じて米国やアジアとの連携が強化され、日本の地位が高まり、中国との貿易協定も進むことが期待される。
  • 改革を着実に進め、一刻も早く交渉に参加し日本の立場を強くするべきである。参加によって正確な情報を入手し、根拠のない懸念や誤解を払しょくして正確な情報に基づく国民理解を得ることが大事である。
  • 参加しない場合、国際的ルールづくりから取り残され、事業環境が一層悪化することを強く懸念する。

若松事務局長

  • 全日本金属産業労働組合協議会(IMF-JC)は全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会(電機連合)、全日本自動車産業労働組合総連合会(自動車総連)、JAM、日本基幹産業労働組合連合会(基幹労連)、全日本電線関連産業労働組合連合会(全電線)の5産別・200万人で構成されており、良質な雇用を日本に残すという信念に基づいて活動している。
  • 昨年4月、IMF-JCとしてTPP参加要請を行った。また議論の本格化にともない、政策リポートを発表するなどし、加盟5組合の意識向上および地域での理解を深めるために資料集の発行も行った。さらに、TPP早期参加を求める緊急アピールも出している。
  • TPP交渉の参加目的は国際労働問題の解消と国内雇用の維持の2点である。
  • 多くの日本企業が海外に進出しているが、出先の労働基準が整備されていない、あるいは運用が不十分なときに労使紛争が起きることが分かっている。
  • 経済特区等では労働者の団結権の制限や、環境基準の緩和によって海外企業の進出を促進している面もあるが、こうしたやり方は健全な市場競争を阻害するものであり、その国全体の経済底上げにつながらないばかりか、進出企業にとっても長期的にみるとメリットにならない。
  • TPPでは貿易投資の促進を目的とした労働・環境基準の緩和の防止、労働基準の順守が盛り込まれるはずであり、参加国の公正かつ健全な市場経済構築の前進につながると考えている。

齋藤社長

  • 農業分野では構造改革が遅れ、高齢化が進み、食糧生産が風前の灯になっている。このままでは、TPPに参加しなくとも食糧生産が途絶えるのではないかと感じている。
  • 高齢者の育成セミナーや、都会の若者を農地に送るセミナーの開催等、手を打とうとはしているが、生産性は急激に低下している。例えばコメ農家は15ヘクタールの作付面積があっても利益率は低く、畑作では1回の台風襲来により利益が帳消しになってしまう状況である。
  • TPP交渉への参加は、日本の農業を国民に考えてもらう最後のチャンスであると考えている。15年後に国内の農業を強化したくとも、その頃には農業の担い手は不在である。
  • 現在の稲作の担い手は平均年齢が65歳を超えると思われ、高齢化をひしひしと感じる。またリタイアする農家、耕作放棄する農家も増えている。これは、仕事をしたくないから放棄しているのではなく、大豆や生花に切り替えても利益が上がらないためだ。コメやこんにゃくは高関税で守られているが、畑作農家の大半は関税保護のない中で生産している。
  • 稲作も、低コスト構造に変えていかなければ、若い人が水田農業を維持できない。構造改革に残された時間はもうない。TPPをきっかけに農業再生、農村地域の再生につながればよいと考えている。
  • 現在、専業農家では食べられず、兼業農家に切り替えている農家が増えている。兼業農家ということは、地方の小売、工場に勤めていることを意味する。産業の空洞化が進み日本企業が海外に移転してしまうと、海外に出稼ぎ、という話になってしまうため、製造業の国際競争力強化は農家にとっても重要である。
  • また天候保険の整備など、農業分野において打つべき手はたくさんあるが、食糧管理法をはじめとする既存制度の枠組みがあるため改革が進まない。さらに、農家に求められる事務処理が増えていることも課題である。
  • 今、大胆な改革をしないと若い人に農地を引き継ぐことができない。将来の日本の食料安定生産につながるのではないか、と思いTPPに賛成する。

戸堂教授

  • 日本の一人あたりGDP成長率は0.7%であり、OECD加盟国平均の1.8%よりも低い。成熟している先進国でも2%ある国が多いことから、日本が成熟社会であるために成長率が低いのではなく、停滞していることが原因であるといえる。
  • 構造改革が必要であり、TPPがきっかけになればと考えている。
  • 経済成長の源泉は技術進歩にあり、知恵の創造が重要である。いかにして知恵を創造するかだが、日本だけで考えても限界があり、国内で知恵を絞るとともに海外とつながって海外の知恵を取り込むことが大切である。
  • 企業のデータを見ても、海外進出や海外直接投資を行った企業は生産性が向上していることが分かっている。
  • 日本はグローバル化が進んでいるといわれているが、実際には日本の輸出額は小さく、OECD加盟34カ国中、下から4番目である。輸出を伸ばすことが経済復興のために重要である。
  • 日本には生産性が高いにもかかわらず国内にとどまっている企業が非常に多い。私はこうした企業を臥龍企業と呼んでいる。このような能力があっても海外に進出していない臥龍企業を政策によって後押しすることが日本のためになる。
  • 日本の30年後を見据えれば、日本にとってTPPは絶対に必要である。

(2)TPP参加に向けて解決すべき課題

髙尾専務

  • 国際競争に耐えうる抜本改革が必要であり、特に農業、人材育成、規制・制度の改革が重要である。
  • TPP参加に向けた課題は農業、企業活動の2点である。
  • 農業分野においては生産性の向上と、農商工連携による輸出拡大が必要となる。農業は国民に食料を供給するとともに、地域の基幹産業として重要な役割を担っている。しかし日本では先進的な取り組みをしている農家は少なく、高齢化、後継者不足が深刻になっている。そのため強い農業の実現に向けた支援をすべきである。競争力の強化、成長力の強化は待ったなしであり、対応するためには農業の担い手にまとまった形で農地を提供し、生産性向上を果たすことが必要である。生産性の高いビジネスモデルの構築が重要であり、生産の高度化を図り、加工流通を通じて農商工連携を進めたいと考えている。
  • 企業は、国内に、高度な知識や技術の集積が必要なモノづくり拠点としての機能を求めている。企業はグローバルの中で経営資源の最適化の視点で拠点を置いている。日本国内では、高度な知識や技術の集積が必要なモノづくり拠点としての機能を集積させる必要があり、こうした拠点を維持するためには立地競争力の確保が大事である。
  • そのためにはイノベーションに資する人材の育成や、企業立地に関する制度改革に国を挙げて取り組むべきである。

若松事務局長

  • 日本のモノづくり産業は大変厳しい状況にあるものの、グローバル化時代に貿易の門戸を閉ざしても生きていけない。TPPによって長期安定雇用を創出する必要がある。
  • 日本では経済の実力を超える超円高、デフレ、震災後の電力不安が輸出産業を直撃し、空洞化が進行している。海外向け拠点のみならずマザー工場や研究拠点まで海外流出の傾向にあり、さらに厳しい状況になっている。
  • 海外での消費地生産が進行する中で国内産業基盤の確保が必須であるが、国内拠点を維持するか否かは企業の経営判断となる。
  • 元来、日本企業の強みは、国内企業の現場・人材にあり、日本の人材なくしてアジアのライバル国と伍していくのは困難である。
  • 戦後、日本は自由貿易体制により恩恵を受けてきたことからも、付加価値の高いモノに加工して輸出することで日本は発展するはずである。日本はマザー工場、高度素材の供給拠点としての役割が期待され、TPPが日本のサプライチェーンに与える影響は大きい。TPPは日本のモノづくりを維持するための環境づくりであるといえる。

齋藤社長

  • 日本の農業は規模が小さいことが問題であり、生産性の向上と規制撤廃を実施して輸出まで視野に入れたフル生産によりコスト低減を急速にできれば、日本の農業にとってプラスとなる。
  • 農地規模拡大のための補助政策は5年など期限を区切って実施し、農地規模拡大を政策誘導してほしい。
  • コストを引き下げるためには農地をフル生産すればよく、現在生産調整によって休田している田も稼働させる。生産量が増加した分は海外輸出し、収益拡大を図ればよい。
  • また農家による事務手続きの簡素化も求める。

戸堂教授

  • 臥龍企業、伏龍農業者は国内に数多く存在し、こうした企業・農業者のポテンシャルを生かすためにも、TPPでやる気を支援する必要がある。臥龍農業者は齋藤氏のほかにもいるはず。
  • 国内の農業者の夢を実現させる枠組みがTPPであると考えている。製造業、サービス業にもやる気がありビジョンを描いている人はおり、そうしたビジョンを実現する手段がTPPである。
  • また被災地には間接輸出をしている企業が多数あり、こうした企業は自ら海外と取引を行うポテンシャルがある。すなわち、売上を伸ばせる可能性がある。
  • 歴史的に見て、国を閉じて発展できた国はない。日本は潜在力が高い企業が多いため、自信を持って国を開けばよい。
  • 1960年代にも現在と同じ議論があり、ラテンアメリカ諸国では保護産業によって自国産業を発展させようとした。一方でアジアでは自由貿易を促進した。その結果、ラテンアメリカ経済は現在も停滞しているのに対し、アジアは高い成長を誇っている。この違いは、国を開くか閉じるかの判断の違いの結果である。

白石学長

  • 現在の日本ではシステムが社会、政治、経済的に行き詰まっている。これを打破する大きなチャンスがTPPである。
  • 日本では、これほど人、モノ、情報が自由に流れるようになったのにもかかわらず、いまだに内と外を分けて考えており、外から来る怖いものを排除しようという流れがある。しかし外は内のためにあり、海外のリソースは日本の繁栄のためにあると考えられる。外に打って出ることで、現況を打破し、新しい社会をつくる機会となるのではないか。
  • 政府として正しい選択をしていただくことを願う。

4.決議文書採択(伊藤元重 東京大学教授)

  • 決議文案が紹介され、賛成多数(参加者からの盛大な拍手)で採択されました。

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