日本の「いま」と「これから」 -TPP時代を見据えて-

今後の経済連携はハイ・スタンダードに 民主党 緒方林太郎衆議院議員

貿易立国、日本

  • 民主党 緒方林太郎衆議院議員

 少子高齢化で国内需要が減少していく日本は、海外に需要を見つけて稼いでいかなければなりません。
 最近、日本企業による外国企業の買収や、海外への投資が盛んに行われており、日本はその収益で食べていけばよいと主張する人がいます。日本の国際競争力が低下していく中で、国内製造や製品輸出によって収益を上げるのではなく、海外に投資し、その利子や配当で国全体を賄おうというものです。これは、英国をイメージしたものかもしれません。確かに、英国は今や金融中心の国家として、経済成長を果たしています。
 しかし、英国の製造業の割合は低下し続けており、私は危うさを感じています。国内で利益を生み出す産業を手放しながら、海外に投資したり企業を買収したりして、鵜飼いのように魚を獲ってくるのを待つというのは、日本の将来像として正しい姿なのでしょうか。
 私は、日本は、資産による金融立国に単純に飛びつくのではなく、これまで培ってきた貿易国家としての歩みを発展させつつ、全体として成長を図るべきだと考えています。

韓国の経済連携政策

 目に見えないので分かりにくいのですが、私は自由貿易網が整備されていることは、社会インフラのひとつであるととらえています。インフラというと通常、道路や橋梁、また公民館や公立病院などの公共施設といったイメージがありますが、韓国は経済連携が充実していることを大いにアピールして企業を誘致しています。私は、日本も同様の発想に立つべきだと思います。
 先日、日本政府は「日本再生戦略」の原案の中で、貿易額に占める経済連携協定締結国の割合を、現在の2割弱から、2020年度に8割程度にまで引き上げるとしました。しかし、韓国はすでにその割合が35%近くあり、現時点では日本をダブルスコアで引き離しています。このまま日本が座していたら、その差はどんどん広がっていくでしょうから、日本再生戦略原案の掲げた方針は当を得たものだと思います。
 韓国は明らかに日本を意識して戦略を立てています。1997年末の通貨危機以降、韓国は経済連携網の充実を図ってきました。その間、大統領は金大中、盧武鉉、李明博と交代しましたが、国策として一貫して強く推進してきました。
 私は、この政策の根底には、二つの動機があると考えています。一つは、日本に勝つということです。日本と産業構造が比較的似ており、ライバル関係にある韓国は、日本を相当意識しています。もう一つは、出生率の低迷です。昨年の合計特殊出生率を見てみますと、日本は1.39でしたが、韓国はそれより低く1.23となっています。出生率の低さは韓国ではより深刻になっています。
 これらのことから、韓国は、身を切ることも辞さない強い覚悟で、日本に先んじて、海外で稼ぐ足場の確保に注力しました。市場を素早く席巻して、日本企業に参入する隙を与えず、「白物家電やテレビといえば韓国」と圧倒してしまうのです。例えば、インドの空港では、ずいぶん早くから、サムスンやLGなどの製品や広告が設置されていたのを思い出します。それと期を一にして、韓国は自由貿易網を整備していったのです。

走りながら考える

 かねてより、日本の経営はボトムアップで、意思決定に時間を要するといわれてきました。
 私はかつて外務省に在籍していましたが、他国との交渉の際には、日本は、決定まで時間がかかるけれども、一度決めたらきちんと実行すると説明して、相手も自分自身も納得させていたところがありました。日本は、政府も企業も、決定は遅いけれどもきちんと実行するのだから良いではないかという甘えがあったと思います。
 これからは「走りながら考える」ようにしていかなければなりません。一旦決めたらきちんとやりますと言うのでは、動きの速い現代社会では折角のチャンスを逃してしまいます。政府も企業も日本社会全体が、もっとスピード感をもって動かなければなりません。
 TPPについて、農業への影響やメリット、デメリットは何か、また対策はどうするのかという議論があります。しかし、それらは交渉の行方次第であって、本当のところはまだ分かりません。ですから、交渉において利益を最大化する努力をしつつ、最終形を見てから考えるようにすればよいのです。「交渉前から内容をすべて承知しなければダメだ」というのでは、国際社会では生きていけません。

経済連携はハイ・スタンダードに

 自由貿易協定については、党内でも外部でも、TPPが先行して取り上げられる傾向にありますが、EUや中国、韓国との交渉も控えています。TPP交渉が進み始めれば、EUや、場合によっては中国も交渉を進めようという話になるかもしれません。私はこれらの交渉は、3つ同時並行的に進める必要があると考えています。
 TPPは日本にとって厳しい交渉になると言われていますが、おそらくEUや中国との経済連携交渉も同様に厳しいものになるでしょう。関税撤廃など高いレベルの市場開放が求められるからTPPには反対と言われますが、EUや中国との交渉でも同じです。例えば、韓国はEUとFTAを締結していますが、対米国と同様に厳しい交渉を行い、ハイ・スタンダードな協定を実現しています。
 現在、経済連携においては、「ハイ・スタンダード」という言葉がキーワードになりつつあります。今後は、交渉締結を望むのであれば、関税撤廃率が高く、様々なルールを包含したハイ・スタンダードなものとしていかなければなりません。
 私は党内の議論で、「これからは自由化の度合いを高める議論が、世界のスタンダードになる。これは良いとか悪いとかいう話ではない。日本も重要な経済連携、自由貿易協定を結ぼうとすれば、高レベルの関税撤廃が求められるようになるだろう」と言っています。そうすると必ず、「そんなことはない。例外品目が認められるはずだ」と主張する人が出てきます。しかし、幅広い例外が認められるという事は世界のスタンダードではありません。そもそも、自由貿易協定とは定義上、実質的にすべての関税及び非関税障壁を撤廃するものを指すのであり、その現実から目を背けることは生産的ではありません。
 例えば、日本とベトナムはすでに経済連携協定を締結していますが、実は乗用車の関税は83%と高いままです。これは、日本が提示した自由化品目との見合いで、ベトナムが乗用車を対象外にしたためです。

TPPに参加しても農業は壊滅しない

 1978年にアメリカンチェリーが輸入自由化されたときには、日本のサクランボは壊滅すると言われましたが、今や佐藤錦などはブランド化して、高級品として扱われています。
 1991年に牛肉やオレンジが自由化されたときも同じです。牛肉は棲み分けが進み、神戸牛や松坂牛は高級ブランド牛として高い評価を受けています。また、年の暮れにこたつに入って食べるのは日本のミカンです。
 今、日本では、年間800万トンのコメが生産されていますが、TPP反対派は、「TPPに参加すると輸入米の関税が撤廃され、国内の米作農家が壊滅する」と主張します。しかし、どこの国が、800万トンものコメを日本に輸出できるのでしょうか。
 米国はカリフォルニア米などが有名ですが、コメ作り自体は主たる産業ではなく、年間輸出量は200万トン程度です。また、灌漑に大量の水を要することから、生産余剰能力はあまりなく、米国の農家に、追加でどれくらい生産できるか聞いたところ、それほどの規模にはならないという答えが返ってきました。
 コメは世界全体で年間4億5000万トン程度生産されていますが、基本的には自給用ですので、輸出量は3000万トン程度しかありません。しかも、その大半はインディカ米で、日本人の好むジャポニカ米はわずかです。TPPに参加すると、あたかも国内のすべてのコメ作り農家が潰れてしまうような議論にすぐに飛びつくのではなく、日本のおいしいコメのためにはどのような政策が必要なのかという真摯な議論を行うべきです。
一方、品質の差がなく、関税による保護がなければ壊滅的な打撃を受ける農産品があることも分かっています。そういう農産品への対応は、オールジャパンでしっかりと考えていかなくてはなりません。

企業による外貨獲得は農業にとっても重要

 私の地元の北九州や周辺自治体には、トヨタ自動車九州、新日鉄八幡製鉄所、TOTOなどの企業が立地しており、農業をやりながら、工場で働いている方がたくさんおられます。兼業農家の方々には、兼業先の収入を含めた収入全体で、TPPを始めとする経済連携の是非を判断していただきたいと思います。それらの企業が撤退してしまった結果、生活に影響が出て営農が困難になることは本末転倒です。
 また、企業が貿易で外貨を稼ぐことは、農業にとっても重要です。
 わが国の食料自給率が40%しかなく、海外依存度が高いことが問題視されていますが、これは鉱工業品でも同じことです。輸出入が機能せず、外国からモノを買えなくなると、わが国は機能不全に陥ります。例えば、石油の輸入が途絶えてしまえば、トラクターも耕うん機も動かなくなってしまいます。
 資源が乏しい日本においては、産業の力が不可欠であり、外に打って出て稼がねばならないのです。

※所属・役職等は掲載当時のものです

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