日本の「いま」と「これから」 -TPP時代を見据えて-

食糧は日本の有望輸出品目になる 庄内こめ工房 齋藤一志社長②

コストダウンを求めて試行錯誤

  • 試行中の直播栽培

 中国市場のリサーチを兼ねて、成都に「おにぎりショップ」を出店していますが、おかげさまで好評で、和食レストランに拡大しています。現在は4店舗ですが、拡大して6店舗体制にする予定です。
 2年前から中国を見て回っていますが、現在、中国産のコシヒカリは1kg240円の高値で販売されており、もう少しで日本産米でも対抗できるようになります。そのためにはコストダウンが不可欠です。
 まいすたぁでは、手間をかけずに育てられるよう、1回散布すれば秋までもつような肥料をメーカーと共同開発したり、直播(じかまき)を試したりしています。日本では、稲作というと苗を育ててそれを水田に植えていく栽培方法が一般的ですが、先進国では水田に直接種をまく直播です。
 直播は育苗や田植えが省略できるので、大幅なコストダウンが可能です。そのため、日本でも直播が試みられてきましたが、雑草が繁茂したり、鳥に種を食べられたり、発芽率が悪かったりしてなかなかうまくいきませんでした。

  • まいすたぁの餅製造ライン

 現在、我々の農家20戸が直播の実験を進めており、あえて情報共有しないで試行錯誤を続けています。今年は良い結果が得られそうで、最も収量が高い方法を見極めたいと思っています。
 今年は米価が高騰し、味噌、醤油、煎餅など加工米を使用する事業者が悲鳴を上げていますが、直播が成功すれば、加工米や輸出米として提供できるようになります。

減反中止は他の政策と合わせて

  • 庄内こめ工房では米の冷蔵保管も行う

 減反政策※は直ちにやめるべきだという議論がありますが、相場の急激な変動に対応できる農家はほとんどいないでしょう。現在のコメの生産数量は年間約800万トンですが、減反を中止すれば少なくとも1,000万トン程度に跳ね上がります。農家は自前でコメを保管する施設を持っていませんから倉庫不足に陥り、市場にコメがあふれます。米価は半値以下になり、販売先がなければ廃棄する可能性もあるでしょう。
 減反を中止するのであれば、加工用、飼料用、輸出用としてコメを作るルールを確立し、諸外国とコメ買い付け枠の協定を締結するなど、様々な政策を実行しながら、年次を区切って徐々に行っていくべきです。
 また、政府は稲作から大豆への転作を奨励していますが、日本海側の気候は大豆の生産に適しておらず、商品になりません。残念ながら肥料になっているのが実状です。結局、庄内ではコメ作りしかできないのです。
 現在の政策は全国一律で地域の特性に合っておらず、無駄に税金を投入して世界一高価な農産物を作らせています。政治家も農業の現状を客観的に把握できていません。1年で150万円、最高7年間補助金を出すと言っていますが、むしろ苦労して規模拡大を進めてきた農家を助けるような政策を実行すべきです。

農業経営はスリルとサスペンス

 経営者である以上、売上は1億円以上欲しいところです。これを逆算すると耕作規模は50~100ヘクタールとなり、20~30人程度の雇用が発生します。

  • 「農業はスリルとサスペンス。それが楽しい」

 問題は農業経営者をどのように育成していくかですが、農業大学校で教えている内容は20~30年前の話です。私も学校やセミナーで講師を務めていますが、座学で農業を学ぶことはできません。三日三晩、朝から晩まで田畑で作業をして、雰囲気をつかむ方が良いと思います。農法は確立されていませんし、現場には栽培方法や道具などに関するヒントが数々あります。
 農業は取り扱い品目が農産物の製造業ですから工業簿記です。仕入原価ではなく、製造原価が分からないといけません。勉強するなら工業簿記です。また、関連する法律も頭に入れておかなければなりません。
 最近活躍されている農業経営者の中には、海外研修を受けている方が多く見受けられますが、フロンティア・スピリットが求められるのかもしれません。今後は青年海外協力隊出身の経営者などが出てくる可能性もあるでしょう。
 農業経営にマニュアルはありません。これまでと違う発想ができる人材が求められています。経営者が発想し、そのアイデアを地域の熟練者とともに具現化していくという形もあるでしょう。
 農業経営は相場の変動を先読みする必要があり、スリルとサスペンスがあります。リスクもありますが成果も大きく、楽しんでいます。
 農業は天候の影響が大きいため、毎日の収穫量にばらつきが出ます。仮に、取引先に毎日一定量を納入する契約であれば、翌日分に欠品があればどこからか調達して来なければなりません。
 例えば、取引先に500納入しなければならないとしましょう。その場合は、全量で1,500作ることとするのです。通常は、500は契約先に、500は外食に、500は市場に回すこととしておき、収穫量が落ちたりした緊急の場合には市場分を契約先に回してリスクヘッジを行うのです。

農協は複数あるべき

  • 自ら農作業を行い、現場を把握する

 私は農業協同組合(農協)がなくなればよいとは思っていません。人材もインフラも整っており、きちんとした機能を果たして欲しいと思います。
 しかし、地域に農協が一つしかないのはおかしいのではないでしょうか。農協に類似の組織は米国をはじめ各国にありますが、農家は複数の組織に加入して、コメを高く買ってくれるのはこの農協、肥料を安く提供してくれるのはあの農協と、場合に応じて使い分けています。農協同士がより良いサービスの提供を競い合っており、業績を上げて発展する農協もあれば、淘汰されていく農協もあります。庄内こめ工房もそういった意味では農協の一つだと思っています。
 現在、農協は販売行為を一切行わず、全国農業協同組合連合会(全農)がすべて取り仕切っていますが、今後は全農がコメを集荷できず、農協が直売するようになるでしょう。産地間競争が始まり、力のある農協は高値で販売できますが、弱小の農協はたたき売るしかなくなると思います。

食糧は日本の有望輸出品目

  • 「若者には、自由な発想をもってチャレンジしてほしい」

 現在、庄内こめ工房には120戸の農家がいますが、若い後継者がどんどん参入してきています。彼らには常々「この10年で世の中がひっくり返るよ」と言っています。今後も農作物を食べる人はいますが、高齢化が進み生産者は減っていきます。これは大きなビジネスチャンスであり、法人化を進めながら後継者を育成しています。
 次世代の農業はこれまでとは全く違うものになると思います。近い将来、食糧は日本の有望輸出品目になることでしょう。自由貿易やTPPを恐れることは、その輸出を抑制することになります。
 息子には「自分の後を継ごうと思うな。養豚と稲作は全部教えるから、その上で自分が面白いと思うものをやればよい」と言っています。不動産業でも建設業でも経営の基本は同じです。
 現在、都会では市民農園が人気で、順番待ちをしている人がたくさんいると聞きます。都市の真ん中にアクセスしやすい市民農園をつくるのもひとつのアイデアです。そこで農業体験を積んだ若者が興味を持ち、農業を学んで農家を継ぐということもあるかもしれません。今後、農家は世襲とは限らないのです。

  • パン食など生活習慣の欧米化などの影響でコメの需要が減少した結果、コメの過剰生産を防ぐため、作付け面積を減らして生産量を調整する政策。減反政策による生産調整によって、コメの市場価格が維持されて農家の経営が安定すると考えられる一方、農業分野における自由競争が阻害されているとしても言われている。

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